パエリアを家で作ってみたら、ご飯がべちゃっと粘ってしまったり、逆に芯が硬く残ったりした。レシピどおりに作ったはずなのに、と首をかしげた経験はありませんか。こうした失敗の多くは、具材やスープの味つけよりも手前、つまりお米の選び方と扱い方で起きています。
結論からいうと、パエリアに向くのは、スープをゆっくり吸い、炊き上がっても粒の形が崩れにくい短粒・中粒の米です。本場スペインのバレンシア地方ではボンバやセンダラといった品種が使われていますが、日本のスペイン料理の専門店では日本米でパエリアを作っているとも紹介されています。日本米でも、洗わない・混ぜない・粘りを抑える工夫を押さえれば、パエリアらしい食感に近づけられるんですよ。
この記事では、パエリア用の米に求められる性質、スペインの代表的な3品種の違い、日本米で作るときのスープの量と火加減、そして鍋底のおこげ「ソカラット」の作り方までを、なぜそうなるのかという理屈から順番に解説していきます。
・パエリアの米に求められる「粒の形・吸水の速さ・白い部分」の3つの性質
・ボンバ、センダラ、アルブフェラの吸い方と食感の違い
・日本米で作るときのスープ量(米の1.5倍程度)と粘りを抑えるコツ
・鍋底のおこげ「ソカラット」を焦がしすぎずに作る見極め方
パエリアの米は「短粒・中粒で吸水がゆっくり」が条件|まず押さえたい3つの性質

パエリアは、スペイン東部のバレンシア州で生まれた米料理です。大きく浅いパエリア鍋で、肉や野菜を炒めたところに米とスープを加えて炊き上げます。白いご飯は米と水だけで炊きますが、パエリアは旨みの出たスープを米に吸わせる料理。だからこそ、お米に求められる性質がご飯とは少し違ってくるんです。(参考:スペイン政府観光局のパエリア紹介ページ)
粒の形で選ぶ:短粒・中粒が向くのは均等に炊き上がるから
パエリアには、細長い長粒米よりも、丸みのある短粒米や中粒米が向いているとされています。パエリア専用の短粒米や中粒米を使うと、米が均等に炊き上がり、パエリアらしい食感になると紹介されています。
なぜ粒の形が関係するのか。パエリア鍋は浅くて広いので、米は鍋全体に薄く広がった状態でスープを吸っていきます。粒の大きさや形がそろっていると、どの粒も同じペースで水分を吸い、同じタイミングで火が通ります。反対に、大きさがばらばらだと、小さい粒は先にやわらかくなり、大きい粒はまだ硬いという差が出やすくなるわけです。
台所でやりがちなのが、家に残っていた複数のお米を混ぜて使ってしまうこと。品種や精米の時期が違うお米を合わせると、吸水のペースがそろわず、炊きムラの原因になりがちです。
選ぶときは、まず粒の形が短粒・中粒であること、そして同じ袋のお米だけを使うことを意識してください。それだけで炊き上がりのばらつきはぐっと抑えやすくなります。(参考:マイナビ農業のパエリア米解説)
吸水の速さで選ぶ:ゆっくり吸う米ほどアルデンテを保ちやすい
パエリアの米でいちばん大事なのが、スープを吸う速さです。スープをゆっくり吸う米ほど、中心に少し芯が残ったアルデンテの状態を作りやすいとされています。
理由はシンプルで、パエリアは加熱しながらスープを煮詰めていく料理だからです。米が早々にスープを吸い切ってしまうと、表面からやわらかくなりすぎて、粒の外側が崩れやすくなります。一方、吸水がゆっくりな米は、スープが煮詰まっていく時間のあいだ、外側の形を保ちながら中心まで少しずつ水分が届きます。その結果、表面はスープの味をまとい、中心にはほどよい歯ごたえが残るわけです。
よくある失敗は、白いご飯と同じ感覚で、やわらかく粘りのある炊き上がりを目指してしまうこと。パエリアの場合、ふっくらもちもちを狙うと、具材の水分とスープでべったりした仕上がりになりがちです。
パエリアでは、ご飯としてのおいしさの物差しを一度外して、粒が立っていて少し歯ごたえがある状態をゴールに置くこと。これが米選びと火加減の判断軸になります。
粒の中の白い部分:粗いでんぷんがスープを抱え込む
パエリアに向く米の特徴として、米粒の中に白く見える部分があることも挙げられています。この白い部分はでんぷんの粒が粗い部分で、スープを吸う料理に適しているとされています。
ふだんのお米は、炊く前の状態だと半透明に見えることが多いですよね。白く見える部分は、でんぷんの詰まり方が粗く、すき間がある状態です。このすき間がスープを取り込む余地になるため、旨みを含んだスープを粒の中に抱え込みやすいと考えられています。スペインのボンバについても、この白い部分がスープを吸収すると紹介されています。
ここで勘違いしやすいのが、ご飯用のお米の見た目の基準をそのまま当てはめてしまうことです。白いご飯では透明感のある粒が好まれる場面が多いですが、パエリアのようにスープを吸わせる料理では、評価のポイントが変わります。
パエリア専用として売られている米を手に取ったら、粒の中の白い部分を観察してみてください。どこを見ればいいかが分かると、米の性質と料理の相性を自分で判断できるようになります。
アルデンテ=米の中心に少し芯が残り、歯ごたえを感じる状態。パエリアでは理想的な食感の一つとされています。
パエリア鍋=パエリアを作るための大きく浅い鍋。米を薄く広げてスープを煮詰めるのに向いた形です。
短粒米・中粒米=粒の長さが短く丸みのある米と、その中間の長さの米。細長い長粒米と区別して呼ばれます。
ボンバ・センダラ・アルブフェラは何が違う?スペイン3品種の吸い方と食感
本場バレンシアのパエリアに使われる米として名前がよく挙がるのが、ボンバ、センダラ、アルブフェラの3品種です。どれもパエリアに使われますが、スープを吸う速さと食感がそれぞれ違います。ここが分かると、レシピの火加減の書き方の違いにも納得がいくんです。(参考:スペインの米品種を紹介した記事(Forbes JAPAN))
ボンバ:吸水がゆっくりで焦げにくく、時間が経っても硬さが残る
ボンバは、スープを吸う速度がゆっくりで、アルデンテのパエリアが作りやすい品種と紹介されています。粒は小粒で大きさがそろい、楕円形の短粒。食感は硬めで、ザクッとした歯ごたえのアルデンテになるとされています。
ボンバの特徴は、スープを吸いにくいぶん焦げにくいこと、そして炊き上がってから時間が経ってもアルデンテが残ることです。吸水がゆっくりなので、スープが煮詰まっていく間も粒が崩れにくく、鍋底の米がスープを吸い切って焦げるまでにも余裕が生まれます。主な産地はバレンシアのラ・アルブフェラ地域のソジャーナ、シジャ、スエカといった町で、スペインの米栽培の約10%を占めると紹介されています。
一方で、生産効率が低く高価な品種でもあるとされています。また、吸水がゆっくりということは、スープの量や加熱時間がほかの米と同じとは限らないということ。ほかの米のレシピのままボンバを使うと、硬すぎると感じることがあります。
ボンバを使うときは、パッケージやボンバ向けのレシピに書かれたスープの量と加熱時間を基準にしてください。時間が経っても食感が保ちやすいので、取り分けまでに少し時間がかかる大人数の食卓にも向いています。
| 主な産地 | スペイン・バレンシア州ラ・アルブフェラ地域(ソジャーナ、シジャ、スエカ)。スペインの米栽培の約10% |
| 食感・味の傾向 | 小粒で均等な楕円形の短粒。硬めで、ザクッとしたアルデンテになるとされる |
| 向いている料理・食べ方 | パエリア(特にバルセロナで好まれると紹介されている)。時間が経っても硬さが残るため取り分けに向く |
| 炊き方のコツ | スープの吸収がゆっくりで焦げにくい。ボンバ向けのレシピのスープ量・加熱時間を基準にする |
センダラ:味と香りで地元に選ばれる、ただし焦げやすい
センダラは、バレンシアのエル・パルマルという村で地元の人に人気があり、味と香りが優れていると紹介されている品種です。粒の大きさは中程度で、食感はボンバよりやわらかめ。柔らかさとアルデンテのバランスが理想的だと評価されています。
ボンバとの大きな違いは、スープを吸う速さです。センダラは吸収が早いとされ、そのぶん焦げやすく、時間が経つとやわらかくなりやすい性質があります。アルデンテはわずかに残る程度で、炊き上がった後は食感が変わっていきます。スープを早く吸うので、米にスープの風味が入りやすい反面、加熱の見極めがシビアになるわけです。
台所でやりがちなのは、ボンバ向けのレシピの時間どおりにセンダラを炊いてしまうこと。吸水が早い米を同じ時間加熱すると、底が焦げすぎたり、全体がやわらかくなりすぎたりしがちです。調理中は目を離さずに様子を見る必要がある米だとされています。
センダラはパエリアのほか、汁気を残して仕上げるメロソやカルドソと呼ばれる米料理にも使われると紹介されています。炊き上がったら時間を置かずに食卓へ出す、という段取りで使うと持ち味を生かしやすくなります。
アルブフェラ:両者の中間で扱いやすい比較的新しい品種
アルブフェラは、ボンバとセンダラの中間的な性質を持つ品種として紹介されています。粒の大きさは中程度で、食感も硬さとやわらかさの中間。スープを吸う速さも両者の中間で、アルデンテを作りやすいとされています。
この品種は約10年前に選抜された比較的新しい品種で、ボンバと比べて気候変動への耐性が優れていると海外の資料で紹介されています。また、原産地呼称(DO)アロス・デ・バレンシアの対象品種の一つとしても挙げられています。吸水のペースが極端でないため、硬すぎず、やわらかすぎずの着地点を探しやすいのが持ち味です。
中間の性質ということは、パエリアだけでなく、メロソやカルドソなど汁気の量が違う米料理にも幅広く使えるということ。逆にいえば、ボンバのような時間が経っても崩れない強さや、センダラのような香りの際立ち方を求める場合は、物足りなく感じることもあるかもしれません。
スペイン米を初めて使う場合、極端な性質を持たない品種から始めると、スープ量や火加減の感覚をつかみやすくなります。品種名はパッケージの表記で確認してください。
3品種を並べると見えてくる「吸う速さ」と食感の関係
3品種の違いを一言でまとめるなら、スープを吸う速さの違いです。吸うのがゆっくりなほど硬めで焦げにくく、早いほどやわらかく風味が入りやすいけれど焦げやすい。この関係が分かれば、品種名を知らない米を前にしても、どう扱えばいいかの見当がつくようになります。
下の表は、スペインの米品種を紹介した記事や海外の品種解説で示されている性質を、お米の教科書編集部が項目ごとに整理したものです。食感の表現は紹介されている範囲にとどめています。
| 項目 | ボンバ | センダラ | アルブフェラ |
|---|---|---|---|
| 粒の大きさ | 小粒・均等 | 中程度 | 中程度 |
| スープを吸う速さ | ゆっくり | 早い | 中間 |
| 食感 | 硬め・ザクッとしたアルデンテ | やわらかめ | 硬さとやわらかさの中間 |
| 焦げやすさ | 焦げにくい | 焦げやすい | 中間 |
| 時間が経つと | アルデンテが残る | やわらかくなる | 適度なアルデンテ |
| 主な用途 | パエリア | パエリア、メロソ、カルドソ | パエリア、メロソ、カルドソなど |
表を見ると、ボンバとセンダラが両端にあり、アルブフェラがその間に位置していることが分かります。どれが優れているかではなく、どんな食感を目指し、どれだけ鍋の様子を見ていられるかで選ぶもの。この考え方は、後で触れる日本米選びにもそのまま使えます。
なぜ「洗わない・混ぜない」のか?スープを吸わせる料理ならではの理屈

パエリアの作り方には、日本のご飯の常識とは逆の決まりごとが2つあります。米を洗わないこと、そして調理中に混ぜないことです。どちらも、粘りを出さず、粒の立った仕上がりにするための理屈につながっています。
ご飯の常識と逆:パエリアでは米を洗わずに使う
パエリアでは、米を洗わずにそのまま使うのが基本とされています。日本のご飯は研いでから炊くのが当たり前なので、最初は抵抗があるかもしれませんね。(参考:スペイン政府観光局のパエリア紹介ページ)
洗わない理由は、米を水に触れさせるタイミングをコントロールするためと考えられます。米は水に触れた瞬間から吸水を始めます。洗っている間にも表面から水を吸うため、スープを吸わせる前に米の表面がやわらかくなり始めてしまいます。パエリアは乾いた米を油と具材の中で炒め、そこにスープを加えて旨みを吸わせる料理。最初に吸い込むのが水ではなくスープであることに意味があるわけです。
やりがちな失敗は、ご飯を炊くときの癖で、つい米を研いでからザルにあげてしまうこと。水を吸った米を炒めると、表面がべたついて鍋にくっつきやすくなり、粒がばらけにくくなります。
米は袋から計量したら、そのまま鍋へ。洗うかどうか迷ったら、パエリアはスープで米を炊く料理だと思い出してください。なお、洗わずに使うことを前提としたレシピかどうかは、手元のレシピの手順で確認しておくと安心です。
炊いている途中で混ぜない理由は粘りと底の層
パエリアは、米とスープを入れた後、調理中に混ぜないのが決まりごとです。リゾットのように混ぜながら仕上げる米料理とは、ここが大きく違います。
混ぜない理由の一つは、粘りを出さないためです。炊いている途中の米をかき混ぜると、粒どうしがこすれ合い、表面のでんぷんが溶け出してスープにとろみがつきやすくなります。とろみがつくと、粒が一つひとつ独立した仕上がりから遠ざかってしまいます。もう一つの理由は、鍋底に香ばしいおこげの層を作るためです。混ぜずに置いておくことで、底の米がじっくり鍋に接し、後で解説するソカラットができあがります。
よくあるのが、底が焦げていないか心配になって、ヘラで米をひっくり返してしまうこと。気持ちは分かりますが、これをするとおこげの層ができないうえに、粘りも出てしまいます。
具材と米を鍋に平らに広げ、スープを注いだら、あとは触らずに火加減で調整する。不安なときは鍋を混ぜるのではなく、鍋の位置をずらして火の当たり方を変えるという考え方が基本になります。
炒めてから米を入れる順番にも意味がある
スペイン政府観光局が紹介する伝統的なパエリアの作り方では、まずパエリア鍋を火にかけて油を十分に熱し、小さく切った鶏肉とウサギの肉を炒めます。その後に野菜を加え、続いて米を入れるという順番です。10人分のレシピの調理時間は約45分と紹介されています。(参考:スペイン政府観光局のパエリア紹介ページ)
この順番にも理屈があります。先に肉を炒めることで油に旨みと香りが移り、そこに野菜の風味が加わります。米はその風味をまとった油の中に入ることで、表面が油でコーティングされます。油に包まれた米は、スープを一気に吸い込まず、少しずつ吸っていくと考えられています。結果として、粒が崩れにくく、粘りも出にくくなるわけです。
失敗しやすいのは、具材を炒めるのを省いて、米と具とスープを一度に鍋へ入れてしまうこと。手軽ではありますが、油のコーティングがないぶん米がスープを早く吸いやすく、仕上がりがやわらかめになりがちです。
米を入れたら、全体に油が回るまで軽く炒めてからスープを注ぐのがポイント。具材として、ムール貝やエビなどの魚介を使ったミックスパエリアというバリエーションもあると紹介されています。
状況:いつものご飯と同じように米を研いでザルにあげ、炊いている途中で焦げが心配になってヘラで混ぜた。
原因:研いだ時点で米が水を吸い始め、表面がやわらかくなっていた。さらに混ぜたことで粒どうしがこすれ、でんぷんが溶け出して粘りが出た。
対策:米は洗わずに鍋へ入れ、油を回してからスープを注ぐ。スープを入れた後は混ぜず、焦げが心配なら鍋の位置や火加減で調整する。
日本のお米で作れる?専門店が日本米を使う理由と粘りを抑える工夫
スペインの品種が手に入らないと、パエリアは作れないのでしょうか。そんなことはありません。日本米でパエリアを作るための考え方とコツが、きちんと紹介されています。
実は専門店でも日本米:スペイン米と性質が似ているとされる
意外と知られていないけれど、日本のスペイン料理の専門店では、パエリアを作る際に日本米を使っていると紹介されています。その理由として挙げられているのが、スペイン米と日本米の性質が似ていることです。(参考:マイナビ農業のパエリア米解説)
パエリアに向く米の条件として、短粒・中粒であることを先に挙げました。日本のお米も丸みのある粒が中心なので、形の面ではパエリアの条件と重なる部分があります。スペイン米でなければ本物にならない、と思い込んでしまいがちですが、粒の形が近いからこそ、扱い方を工夫すれば十分にパエリアらしい仕上がりを目指せるわけです。
ただし、日本米はふっくらと粘りのある炊き上がりを目指して作られてきたお米です。何も工夫せずにパエリアに使うと、粘りが前に出て、粒の立った食感から離れやすくなります。専門店で日本米が使われているからといって、ご飯と同じ扱いでよいわけではない点は押さえておきましょう。
日本米で作るときは、粘りをどう抑えるかがポイントになります。次の見出しで紹介する工夫とセットで考えてください。
粘りを抑える3つの味方:オリーブ油・サフラン・米の1.5%の塩
日本米を使う場合、米の粘りを出さないよう、オリーブ油、香辛料のサフラン、米の1.5%の食塩を加えるのが一般的とされています。どれもパエリアの味の要素ですが、同時に粘りを抑える役割も担っているんです。
オリーブ油は、炒める段階で米の表面を包み、スープを吸うペースをゆるやかにしたり、粒どうしがくっつくのを防いだりすると考えられます。食塩は味つけであると同時に、米の炊き上がりの食感にも関わるとされています。サフランは、パエリアの色と香りを決める香辛料で、伝統的なパエリアの基本材料にも挙げられています。この3つをそろえることで、日本米の持つ粘りを前に出しすぎない方向へ寄せていくわけです。
やりがちなのは、塩分を控えようとして塩を大きく減らしたり、油を少なめにしたりすること。味が薄くなるだけでなく、粘りを抑える効果も弱まり、べたついた仕上がりの原因になることがあります。
塩の量は、スープの塩気も含めて米の1.5%を目安に考えるのが分かりやすい方法です。市販のブイヨンなど塩分を含むスープを使う場合は、加える塩の量を調整してください。
しっかり炒ってから炊き、最後に蒸らす
日本米でパエリアを作るときのコツとして、米をしっかり炒ってから炊き、炊いた後に蒸らすことが挙げられています。工程そのものはシンプルですが、それぞれに意味があります。
しっかり炒ることで、米の表面が油に包まれ、熱が入ります。表面に油の膜ができた米は、スープを一気に吸い込まないため、粒の形が保たれやすくなると考えられます。炊いた後の蒸らしは、鍋に残った熱と蒸気で、米の中心まで水分を行き渡らせる時間です。スープが煮詰まった直後は、表面と中心で水分のむらが残っていることがあり、蒸らすことでそれがならされていくわけです。
よくある失敗は、炒める時間が短く、米が透き通らないうちにスープを入れてしまうこと。また、火を止めた直後にすぐ取り分けると、中心まで水分が届かず芯が硬く残ったり、表面だけがやわらかかったりしやすくなります。
米は油が全体に回り、粒の様子が変わるまで炒めること。炊き上がったら火を止めて、ふたやアルミホイルなどで覆って蒸らす時間をとること。この2つを意識するだけで、日本米でも食感が安定しやすくなります。お米を油で炒めてから炊く理屈は、バターライスにも共通しています。

ハンバーグの横に添えたい、オムライスの土台にしたい。そう思ってバターライスを作ってみたら、べちゃっとした、塩気が強すぎた、バターの香りが飛んでしまった。そんな経…
日本米を選ぶときに見ておきたいポイント
日本米でパエリアを作るなら、粘りを抑える工夫が前提になります。そのうえで、お米選びの段階でも意識しておきたいことがあります。
日本のお米は品種によって、粘りが強いと紹介されているもの、あっさりした食感と紹介されているものなど、傾向に幅があります。パエリアで目指すのは粒の立った食感なので、品種の公式紹介で粘りの強さが特徴として前面に出ているお米は、オリーブ油や塩による粘り対策がより大切になる、と考えるのが筋です。反対に、あっさりした食感と紹介されている品種は、パエリアの方向性と重なりやすいといえます。
失敗しやすいのは、もち米を混ぜたり、炊き込みご飯向けにもっちりさせたいときの感覚で米を選んだりすること。粘りの強いお米ほど、スープを吸った後にべたつきやすく、粒がばらけにくくなります。
迷ったら、ふだん食べている同じお米で一度作ってみて、粘りが気になったら次回は油やスープ量を見直す、という順番で調整するのが現実的です。品種の食感の傾向は、各産地の品種紹介ページで確認できます。
スープの量と火加減で食感が決まる|ベタつき・芯残りはどこで起きる?
米を選び、洗わずに炒めるところまでできたら、残るはスープの量と火加減です。パエリアの食感の失敗は、ほとんどがこの2つで起きています。どこで何が起きているのかを理屈で押さえておきましょう。
スープが多いとベタつき、少ないと芯が残る
パエリアでは、スープが多いとベタベタになり、少ないと芯が残るとされています。シンプルですが、ここがいちばん大事な関係です。
なぜそうなるのか。米が吸えるスープの量には限りがあります。米が吸い切れないほどのスープを入れると、余ったスープの中で米が煮える状態が長く続き、表面がやわらかくなって溶け出したでんぷんがスープにとろみをつけます。これがベタつきの正体です。反対にスープが少ないと、米の中心まで水分が届く前にスープが蒸発してしまい、中心に硬い芯が残ります。目指すのは、米が中心までちょうど吸い切った瞬間にスープがなくなる量、ということになります。
台所でやりがちなのが、具材を多めに入れたときにスープの量を変えないことです。野菜や魚介は加熱すると水分を出すので、具の量が多いと実質的にスープが増えた状態になります。逆に、火が強すぎてスープが早く蒸発すると、量は合っていても芯が残ることがあります。
スープの量は米の量を基準に決め、具材が多いときは少し控えめにするなど、具から出る水分も計算に入れて考えてください。
日本米なら米の1.5倍程度のスープから始める
日本米でパエリアを作る場合、米に対して1.5倍程度のスープを使うのが目安とされています。最初はこの量を基準にして、仕上がりを見ながら調整していくのが近道です。
1.5倍程度という目安は、日本米の吸水の性質と、パエリア鍋の上でスープが蒸発していく分を合わせた量と考えられます。パエリアは浅く広い鍋で、ふたをせずに加熱することが多い料理です。白いご飯を炊く炊飯器や厚手の鍋のようにふたで蒸気を閉じ込めないため、加熱中にスープが空気中へ逃げていきます。その分も見込んだ量というわけです。
ここで注意したいのが、スペイン米のレシピの分量をそのまま日本米に当てはめてしまうこと。品種によって吸水の速さが違うことは前の章で見たとおりで、レシピが想定している米と手元の米が違えば、ちょうどよいスープの量も変わります。
まずは米の1.5倍程度で一度作り、硬ければ次回は少し増やし、ベタついたら少し減らす。毎回同じ計量カップで米とスープを量っておくと、調整の結果が比べやすくなります。

加熱は20~25分が目安、鍋と火の当たり方で変わる
日本米でパエリアを作るときの加熱時間は、20~25分が目安とされています。ただし、この時間はあくまで出発点です。
加熱時間が幅をもって紹介されているのは、鍋の大きさや材質、コンロの火の大きさによって、スープの蒸発するペースが変わるからです。パエリア鍋のように径の大きな鍋を家庭のコンロにのせると、火が当たる中心部分と、火から離れた縁の部分で温度に差が出ます。中心は早く煮詰まり、縁はスープが残りやすい。これが、同じ鍋の中で炊きムラが出る原因になります。
よくある失敗は、スープが残っているからといって、途中でスープを足したりかき混ぜたりすること。スープを足すと米が吸う量のバランスが崩れ、ベタつきの原因になりがちです。また、途中で混ぜると先に解説したように粘りが出てしまいます。
縁にスープが残るときは、鍋の位置を少しずつずらして縁にも火を当てるのが基本の考え方です。時間はあくまで目安として、スープが煮詰まり、米の表面に小さな穴がぽつぽつと見え始めたら仕上げに向かう合図、と鍋の様子で判断してください。
状況:加熱の途中で米をつまんでみたら硬かったので、慌ててスープを足し、さらに加熱を続けた。
原因:途中で継ぎ足したスープで米が煮える時間が長くなり、表面だけがやわらかくなってベタついた。硬く感じたのは、まだ加熱途中で中心まで水分が届いていなかったためだった可能性もある。
対策:最初のスープ量(日本米なら米の1.5倍程度)を守り、加熱の後に蒸らす時間をとって中心まで水分を行き渡らせる。次回作るときに量を見直す。
鍋底のおこげ「ソカラット」はどう作る?中火約18分の見極め方
パエリアを取り分けたとき、鍋底からカリッとはがれる香ばしい層。これがソカラットです。米をスープで炊く料理であるパエリアにとって、ソカラットは仕上がりを左右する大事な要素とされています。(参考:ソカラットの解説ページ)
ソカラットとは鍋底にくっついたこんがりした層
ソカラットは、スペイン語で焦がす、こんがり焼くといった意味の言葉で、米がパエリア鍋の底にくっついた、よく焼けた層を指すとされています。色は茶色く、カラメル化した香ばしい層で、食感はもろくカリッとしています。
日本のご飯でいえば、土鍋や釜で炊いたときのおこげに近い存在です。ただしパエリアでは、おこげは偶然できるものではなく、狙って作るものとして位置づけられています。本物のバレンシア風パエリアには常にソカラットが欠かせないとされ、これがないと単に米を調理しただけになってしまう、とまで説明されることもあります。スープの旨みを吸った米が鍋底で焼かれることで、香ばしさと旨みが凝縮されるわけです。
勘違いしやすいのは、ソカラットを焦げの失敗だと思ってこそげ落としたり、焦げないように火を早めに止めたりしてしまうこと。パエリアでは、鍋底にこんがりした層ができていること自体が、上手に作れた証拠の一つなんです。
なお、ソカラットの仕上がりは、スープの質、鍋、油の量、熱源、作る人の経験によって変わるとされています。最初から理想どおりにできなくても、回数を重ねて自分の鍋とコンロの癖をつかんでいけば大丈夫です。
混ぜずに水分を飛ばした後、米が鍋底で焼ける瞬間
ソカラットを作る流れとしては、中火で約18分間、混ぜずに液体を蒸発させ、香りと見た目で形成を判断するという方法が紹介されています。
ソカラットができる仕組みは、スープがなくなった後にあります。スープが鍋に残っているうちは、鍋底の温度はスープの沸騰する温度を大きく超えません。スープが蒸発しきると、鍋底の米は水分のクッションを失い、油とともに鍋に直接触れて、焼かれる状態に変わります。この瞬間から、米の表面がこんがりと色づき始めるわけです。だからこそ、途中で混ぜずに鍋底の米をじっと鍋に接しさせておくことが欠かせません。
ここで注意したいのは、先に紹介した日本米の加熱時間の目安(20~25分)と、この約18分という時間が、それぞれ別の資料で示された目安だということです。米の品種や量、鍋によって時間は変わるので、どちらかの数字に縛られすぎないことが大切です。
時間は目安として使い、スープがほぼなくなったところからが、ソカラット作りの本番だと考えてください。
判断は香りとフォーク、焦がしすぎは台無しに
ソカラットができたかどうかは、香りとフォークで確かめる方法が紹介されています。米の天然の糖分が焙煎されるような香ばしい香りが立ってきたら、形成が進んでいるサインとされています。
香りで判断するのは、鍋底が見えないからです。パエリアは上に米と具材が広がっているので、底の状態を目で確かめることはできません。そこで、香ばしい香りの変化に気づくこと、そして鍋の端からフォークなどをそっと差し入れて、底の米がカリッと鍋にくっついているかを確かめることが、判断の手がかりになります。
ただし、過度な焦げはパエリアを台無しにするとされています。香ばしい香りを通り越して、焦げ臭いにおいがしてきたら、それは焼きすぎのサイン。苦みが出て、せっかくのスープの風味が損なわれてしまいます。吸水が早く焦げやすい品種や、粘りの出やすい日本米では、特に鍋の様子をよく見ておく必要があります。
香りが変わってきたら、火を少し弱めるか止めるかの判断をすぐにできるよう、鍋のそばを離れないこと。これがソカラットを成功させるいちばんのコツです。
・ソカラットは焦げの失敗ではなく、狙って作る鍋底の香ばしい層
・できるのはスープが蒸発しきって、米が鍋底で焼かれ始めてから
・スープを入れた後は混ぜない。混ぜると層ができない
・判断は香ばしい香りと、フォークで底の米がくっついているかの確認
・焦げ臭さを感じたら焼きすぎ。すぐに火を弱めるか止める
パエリアの米選び、家庭ではどう考える?場面別の使い分け
ここまでの内容を踏まえて、家庭でパエリアを作るときの米選びを、場面ごとに整理してみましょう。どの米が正解というより、どんな食感を目指し、どれだけ手をかけられるかで選ぶものです。
本場の歯ごたえを目指すならボンバ
粒の立った、ザクッとしたアルデンテのパエリアを目指すなら、ボンバが候補になります。スープの吸収がゆっくりで焦げにくく、時間が経ってもアルデンテが残ると紹介されている品種です。
ボンバが向いている理由は、失敗の余地が比較的広いことにあります。吸水がゆっくりなので、スープが煮詰まるまでの間に粒が崩れにくく、焦げにくいので鍋底の見極めにも余裕が生まれます。パエリアを初めて作る人にとっても、ソカラットに挑戦したい人にとっても、扱いやすい性質といえます。時間が経っても食感が保ちやすいので、来客時など取り分けまで時間がかかる場面にも向いています。
一方で、生産効率が低く高価な品種とされている点は、ふだん使いを考えるうえで知っておきたいところです。また、吸水がゆっくりなぶん、日本米と同じスープ量や加熱時間で作ると硬く感じることがあります。
ボンバを使うときは、日本米向けの目安ではなく、パッケージやボンバ向けのレシピの分量を基準にしてください。特別な日の一皿として取り入れるのも一つの考え方です。
香りとやわらかさを楽しむならセンダラ、汁気の多い米料理にも
スープの風味をたっぷり含んだ、やわらかめの食感が好みなら、センダラが候補になります。味と香りが優れていると紹介され、柔らかさとアルデンテのバランスが理想的と評価されている品種です。
センダラはスープの吸収が早いため、米に風味が入りやすい反面、焦げやすく、時間が経つとやわらかくなりやすい性質があります。そのため、パエリアだけでなく、汁気を残して仕上げるメロソやカルドソのような米料理にも使われると紹介されています。スープの旨みを楽しむ料理と相性がよいわけです。
注意したいのは、調理中に目を離せないことです。吸水が早く焦げやすいので、ソカラット作りの見極めはボンバよりシビアになります。また、時間が経つと食感が変わるため、作り置きや取り分けに時間がかかる場面には向きにくいといえます。
センダラを使うなら、少人数で、できたてをすぐに食べる場面がおすすめです。鍋のそばを離れずに様子を見られる日に作ってみてください。
思い立ったら、手元の日本米で
今日パエリアを作りたい、と思い立ったときは、家にある日本米で十分に作れます。日本のスペイン料理の専門店でも日本米が使われていると紹介されている、というのはここまでで見てきたとおりです。
日本米で作るときの考え方は、粘りをどう抑えるかに集約されます。洗わずに使い、オリーブ油でしっかり炒め、サフランと米の1.5%の塩を加える。スープは米の1.5倍程度から始め、20~25分を目安に混ぜずに加熱し、最後に蒸らす。この一連の流れを守ることで、日本米の持つ粘りを前に出しすぎず、パエリアらしい食感に近づけられます。
やりがちなのは、ご飯を炊くときの感覚で研いでしまうことと、具材の水分を考えずにスープを入れすぎることです。日本米は粘りが出やすいぶん、スペイン米よりもスープ量の影響を受けやすいと考えておくとよいでしょう。
最初の1回は、分量をメモしておくことをおすすめします。仕上がりを見て、次回はスープ量や火加減を少しずつ調整していけば、自分の鍋とお米に合った作り方が見つかります。
中粒米という選択肢も
パエリアには短粒米だけでなく、中粒米も向いているとされています。日本米とスペイン米以外にも、中粒米という選択肢があることを知っておくと、お米選びの幅が広がります。
中粒米は、短粒米ほど丸くなく、長粒米ほど細長くない、中間の形のお米です。パエリア向けの米の条件として挙げた、粒が均等に炊き上がることと、スープを吸う料理に向くことは、短粒米と中粒米の両方に共通する性質として紹介されています。たとえば、アメリカのカリフォルニアで作られている中粒種のお米も、この中粒米の仲間です。
ただし、中粒米といっても品種によって吸水の速さや粘りの出方は違います。ボンバ、センダラ、アルブフェラの違いを思い出すと分かるように、同じパエリア向けでも性質には幅があります。初めて使うお米は、スープ量の目安をパッケージやメーカーの案内で確認してから使ってください。

売り場やネット通販で見かけるカルフォルニア米。日本のお米と何が違うのか、炊飯器でふつうに炊いていいのか、どんな料理に合うのか。袋を手に取ったものの、そこで迷って…
| 項目 | ボンバ | センダラ | 日本米 |
|---|---|---|---|
| 目指す食感 | 硬め・ザクッとしたアルデンテ | やわらかめ・風味重視 | 工夫次第でアルデンテに近づける |
| 扱いやすさ | 焦げにくく余裕がある | 焦げやすく目が離せない | 粘り対策とスープ量が鍵 |
| 向いている人・場面 | 来客時、取り分けに時間がかかる食卓 | 少人数でできたてを食べる日 | 思い立った日、ふだんの献立 |
まとめ|吸い方を知れば、手元のお米でもパエリアは作れる
パエリアの出来を左右するのは、スープの味つけよりも先に、お米がスープをどう吸うかです。スペインのボンバやセンダラが手に入らなくても、ふだんの日本米で十分に始められます。まずは次の休日に、家にあるお米を研がずに計量し、オリーブ油でしっかり炒めてから、米の1.5倍程度のスープで炊いてみてください。仕上がりの硬さや粘りをメモしておけば、2回目からはスープ量と火加減を自分の鍋に合わせて調整できるようになります。
※品種の流通状況やレシピの細部は変わることがあるため、最新の情報は各発信元でご確認ください。

コメント